1950年代後半から1960年代初頭にかけて、アメリカの自動車文化は空前の発展期を迎えました。その中で登場したのが、“車内でレコードを再生する”という一見無謀とも思えるオプション──**車載レコードプレーヤー(In-Car Record Player)**です。
一瞬で廃れたこの贅沢オプションは、クラシックカー界において今も語り継がれるロマンの象徴です。
🔧 1. 技術のはじまり:Highway Hi-Fi(ハイウェイ・ハイファイ)
最初に車載レコードプレーヤーを導入したのは1956年のクライスラー。
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名称:Highway Hi-Fi
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開発:クライスラー × CBS(コロムビア・レコード)
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特徴:
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専用の16 2/3回転レコード(通常のLPとは違う)
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耐振設計の専用盤のみ再生可能
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ダッシュボード下に設置、音声はAMラジオと連動
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👉 音質は良好だったが、専用レコードしか使えない点と、メカの耐久性が低く、数年でフェードアウト。
📻 2. GMとRCAの挑戦:Cadillacにも搭載されたIn-Car Record Player
クライスラー系に続いて、**GM(ゼネラルモーターズ)**も車載レコードプレーヤー市場に参入。
✅ Cadillacでの搭載
1958〜1960年頃、キャデラック(とくにSeries 62やDe Ville)でディーラーオプションとして提供されていた。
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インパネ下に吊り下げ取付
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手動スライド開閉式トレイ(レコードを中にセット)
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専用アンプとスピーカーと連動
👉 運転中の振動に弱く、針飛びや故障が多発。しかし“贅沢の象徴”として限られたユーザーには愛された。
📀 3. Fordやアフターマーケットの追随
フォードも1960年代初頭に車載プレーヤーを短期間採用。 また、以下のようなアフターマーケットメーカーも出現:
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ARC (Automotive Record Changer)
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AutoVictrola
これらは家庭用プレーヤーを自動車対応にカスタムした製品が多く、DIY感のある構造も人気の一因だった。
📉 4. なぜ消えたのか?
❌ 振動問題
当時のサスペンション技術では道路の段差や揺れに対応できず、針飛びが頻発。
❌ 使い勝手の悪さ
レコードの入れ替えが煩雑で、安全運転と相性が悪い。
✅ 登場した「8トラックテープ」
1965年以降、より安定して再生できる8トラックテープが登場し、車載オーディオの主流へと取って代わった。
💎 5. コレクターズアイテムとしての価値
今日では、当時の車載レコードプレーヤーは非常に希少。
状態 | 価格相場(USD) |
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ジャンク品 | $500〜800 |
完動品 | $1,500〜3,000 |
NOS(未使用) | $5,000以上も |
ビアリッツやインパラなどのコンバーチブルに純正装着された例は特に評価が高い。
🎯 まとめ
車載レコードプレーヤーは、単なる“オーディオ機器”ではなく、1950年代アメリカの「豊かさとロマン」の象徴でした。
キャデラック、クライスラー、フォード──各社が夢見た「走る音楽サロン」は、やがて実用性の波に飲まれましたが、その残響は今もなおクラシックカー文化の中で響き続けています。
🎼 あなたのガレージにも、いつかこの“走るジュークボックス”を迎えてみませんか?